姫は夫の母。
名前は「さく」と言います。
夫と私は、さくさんのことを、ふたりだけのとき、「姫」とか「さくちゃん」と呼びます。 亡くなる2年前~の日記です。
2009/07/11
姫さまお泊り
姫さま、
1~2週間入院することになった。
姫の実姉の告別式があったのは、きのうのこと。
参列できなかったものの、
姫は心を痛めていたことだろう。
はよ元気になって戻っておいで。
2009/7/15
ご注文でございます
姫さまが顔ほころばせ
「むうが来てくれたよ、きのう学校の帰りに」
と。(むう、ありがとね)
微熱で入院中の姫さまの、本日のご注文。
忘れないようにメモをしておかなくては。
カントリーマアム(バニラ)
煮物(ジャガイモ、大根、ニンジンを煮くずれるほどに柔らかく煮ること)
お好み焼き(材料は、鳥ひき肉、ニラ、ネギ。野菜はミジンギリ)
リンゴ(すりおろしたもの)
筆記用具(姫の”大切袋”の中のペンはフタが閉まってなかったため、枯れておった)
ご注文の品は、明日、「自称かっこいいおじさん(夫)」が届けるでござる。
2009/07/26
ごめんなさい
亡き義兄もそうだったけれど、
会いに行くと、どんより暗い。
暗黒の魔王に飲み込まれたかのようだ。
眉間にしわよせて、
蚊のなくような声で、
「〇〇が見つからない」
「(病院の)ご飯がまずい」
「看護士さんがやってくれない」
「すぐに疲れちゃうんだよ」
「夜眠れない」 etc。etc。
笑顔を見せない。
ありがとう、がない。
そして、
「もうすぐお迎えが来るよ」
と、それだけは、聞こえるようにはっきり言う。
息子らのたくさんの笑顔。
こうしてほしいと言われるままに、してあげる数々。
それでも足りなくて
こなかったしあわせを数える。
ねぇ、姫。
姫はどうすればしあわせになれるの?
ねぇ、姫。
ごめんなさい、姫。
いたらない嫁だね、わたしはいたらない。
姫をしあわせにしてあげられない。
2009/8/8
退院
姫は本日、退院いたしました。
主治医いわく、
「水分をたくさん取ってくださいね」
とのこと。
それだけなのよ。他には問題なし。
病院の食事はまずくて食べられないと顔をしかめていたのに、
オラの作った煮物とゴーヤチャンプルを完食。
うはぁ~。うれしいわ。ちゅ。
2010/11/14
まだらボケも、かわいいです
(再び入院中) 姫は、同じ話を繰り返す。
きょうはハムの話を3回、パンの話を2回、お芝居のお弁当の話が2回。
「ハムもらったから、マサコさん、持っていってね。そこにあるから」
(ハムなど病室にあるはずもなく)
「いつもありがとうございます」
「全部はダメよ」
「はーい。おかあさんの分を取っておくね」
「パンをきのうから探しているんだけれど、ないの」
「お病気だから今は食べられないんだよ。点滴で栄養もらっているんだよ」
「そうか。どうりでお腹がすかないと思った」
「でしょ」
「もうすぐお迎えが来るね」
「来ないよ。おかあさん、よくなってパンを食べなくちゃ」
姫はパンが好き。中でもスイスロールが好き。
きょうの姫はちょっとしあわせ(&元気)そうだった。
2010/11/18
パンが食べたいのに
きのうの姫は、正気を取り戻していた。
記憶も、今いる場所も、時間も、はっきりしていた。
正気になると、
寒かったり、背中が痛かったり、タンが苦しかったり、パンが食べたかったり、など、
要求もはっきりする。
他はともかく、パンは許可が出ない。
「むせて水を飲み下すことができなかったので無理ですね、危険です」
と看護士さん。
院長先生が姫に「そろそろご飯、だいじょうぶかな」って言ってくれたらしいけど。 期待させるようなことを安直に言うなよな、と思う。
ご飯、食べたいね。 スイスロール、食べたいね。
2010/11/24
頼もしい姫の応答
男って、お見舞いに行ってもあっというまに帰ってくるよね。ハハハ! お見舞いは用足しではないのにね。
きょうは1時間半、ベッドの手すりにホッペタをつけ、ゆったりとそばにいることができた。
姫がだまっているときは、姫の手をさすりながら、うとうとしていた。
細くきれいな指と手のひらをマッサージした。
姫は何も言わずに黙ってされるままにしていた。
文句を言わなかったのは、気持ちよかったからかも。
思い出したように、早く死にたいと姫は言う。
手を代え品を代え、応戦。
「元気になって、スイスロールを食べなくっちゃ!」
「そんなにきれいなのに、まだ誰も迎えになんて来てくれないよ(笑)」
姫はスイスロールが好き。そして、キレイと言われるのが好き。
姫はきれい。八千草薫さんに似ている。
「そうだね。生きているのはつらいよね。わたしも死にたいけど、でも、自分で死ぬとヤスシさん(姫の息子)が悲しむから、ガンバルんだ」
そう言うと
「そうだよ!」
と、姫は力強く応答。
姫を頼もしく感じた瞬間さ!
2010/12/9
静かな時間
全身からオーラを醸し出す。
時間はいっぱいあるよ、
ずっとここにいるよ、 の、オーラ。
姫がときどきうっすら目をあける。
すると、わたしと目があう。
にこにこ、ゆったりと姫を見ているわたし。
わたしからは何も言わない。
姫がわたしの手を握ってくる。
「まだこんなに力があるの?」
と思うくらいに強く。
そして、
「そばにいたい」
と言う。
姫はわたしを好き?
頼ってくれている?
2010/12/21
「ゴックン」ができない
病院で、ジュースをひどくむせこんで以来、 「ゴックンができない」と烙印を押され、 ひと月以上もの間、何も口にしていない。
栄養は点滴オンリー。
病室の他の患者さんがおいしそうに食べるのに。
食事を運ぶ看護士さんに
「すみませーん、すみませーん、わたしもくださーい」
とねだる。
「小さく切れば、きっとだいじょうぶ」
などと言う。
気持ちはわかる。
人生から食事を取ったら、何が残るんだろう。 「水を飲んでもいいか、聞いてみてくれないか」 と乞われ、だめもとで聞いてみた。
看護士さん、
「スプーンで数滴くらいなら」
と。
(うそー!)
(よかったね、姫!)
コップとスプーンをお借りして、ほうじ茶をいただいた。
「いい匂いでしょ~」
まっさきに、匂いをかがせてあげた。
ほうじ茶ってこんなにいいかおりだったかしら。
歯のあたりに、少し、スプーンで落とした。
「入ったよ~」
と姫。
姫の喉がゴックンと動くのがわかった。
また数滴、スプーンで落とした。
「入ったよ~」
と姫。
「もっと喉の奥の方に入れて」
と頼まれたけれど、それはダメだよ、むせちゃうからね。
コップをかたづけにいくと、さきほどの看護士さんが
「どうでしたか?」
と。
「ゴックンできましたよ」
と言うと、 「先生に伝えておきますね」 と言ってくれた。
もしかしたら少しずつ、飲んだり食べたりしてもいいことになるかも。
そうしたらおうちに帰れるかも。
そう思っていたら、病院の先生から、電話があった。
「本当はダメなんですよ。
誤嚥(ごえん)があると、肺炎をおこす可能性があります。
医学的には避けた方がよいということ、承知しておいてください」
とのこと。
「喉の奥に入れないように、数滴ずつならいかがでしょうか。
医学的にも病院としても推奨できないということ、承知の上で、
家族が十分に注意してあげるということでいかがでしょう」
先生は、
「それでしたら(どうぞ)。お気持ちはよくわかりますから」
と。
姫が「ゴックン」できない原因は、脳梗塞のせいかもしれない、とのこと。
3か月以上同じ病院にとどまれないルールらしく、 じきに転院する予定。 転院したらもう一度調べてもらおうかな。
案外、パクパク食べてもだいじょうぶかも。
2011/1/8
転院
昨日、狭山市内から日高市の病院に、転院いたしました。
姫は病院の車で搬送。車いすではなく、ベッドです。
入院前は少しは歩いていたのにね。
夫とわたしは自家用車で移動しました。
今度の病院は少し大きいです。迷子になりそうです。
窓が大きく、外の木々がよく見えます。
窓際のベッドになって、よかったね。
看護士さんたちも「忙しいのよオーラ」が出ていず、気軽にお願いできそうです。
姫は看護士さんが忙しかろうが、必要なときに言いたいことが言えるので、そこらへんは安心。
わたしも、病院の先生や看護士さんが忙しかろうが、おかまいなく、
遠慮せずに、聞きたいことを聞こうと思います。
姫のことで聞けずにいることが、たくさんあるのです。
2011/1/21
柔らかな髪とほっぺ
「千葉に行ったの」
と姫。
「きょう?」
「そう。でも先かえってきた」
「どうしたの?」
「疲れちゃった」
「そうなんだ。もう元気になった?」
「うん」
「花、見てきたの?」
「そうよ。マサコさんも一緒だったじゃないの」
「(ハハハ、そう来たか!)・・・そうだったね~(汗)」
「お迎えがそろそろだよ」
「そんなことないよ。きれいだモン。
ほら~。ほっぺ、触っちゃった。
もっと触っちゃおう。ほらねー、きれい!」
「・・・髪といてくれる?」
「はーい」
姫の髪は、タンポポの綿毛のように、軽くてフワフワで真っ白。
「いいなぁ~。すてきな髪!」
本当にそう思うよ。
2011/1/21
すてきな笑顔
姫の今度の病院で。
「タンを取ってほしいのだけれど今看護士さん夕食時で忙しいから予約してあるの」
と姫。
他にもお伝えすることがあったので、帰りにナースステーションに寄りました。
「予約してあると申しておりますので、ついでのときにお願いいたします」
と伝えたところ、看護士さんが
「いつでもベルを押していただいていいんですよ」
と、これ以上の笑顔があるか?というような満面の笑顔でした。(すてき!)
永眠
2011年(平成23年)8月18日、AM3時30分。
永眠しました。 89才でした。 下の画像は、お葬式に間に合うように、フォトショップで描きました。 八千草薫さんと呼ばれ、とても愛らしい人でしたから、 「似てないわよ!」 と怒られるかも。ゆるして!
Comments